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2009年2月 4日 (水)

日中関係史考7

 前回のシリーズ6では、張作霖爆殺事件と柳条湖満鉄爆破事件の間の日本の国内事情として、田中上奏文など3件をあげておきました。この両事件にはさまれた数年間は、世界恐慌の深刻化、農村の疲弊と失業者、労働運動と治安維持法問題など、現在と非常に似ているところがあります。

 小林多喜二の『蟹工船』もこの間(昭和4年)に発表されたものでした。しかしそれだけでは、前記の両爆破事件をはじめ、続々と起きる関東軍の独走や、なぜ軍部が国を左右する力を持つようになったのかの説明になりません。そこでヒントを2件を追加し、以後それがどうエスカレートしていったか、経緯を見ていただきたいと思います。

 陣中要務令

 前々回、張作霖テロを敢行した関東軍が「独断専行」だったといいました。ところがなんと、その言葉そのものが軍人のあるべき姿を諭した教範『陣中要務令』にあるのです。その冒頭に掲げられた「綱領」の3番目がそれで、当用漢字、かなづかいなど直して次ぎに掲げます。

 三 命令の実施には独断を要する場合少なからず。けだし兵戦の事たるその変遷はかりがたく、命令の指示状況の変化に伴はざることあり。この如き場合においては、受令者自らその目的を達し得べき方法を採り、独断専行もって機会に投ぜざるべからず。然れども独断専行は、応変の道にして常経にあらざるなり。みだりに発令者の意図以外に逸脱すべからず。

 「上がそうなればいいと考えていそうなら、ためらわずやってしまいなさい。命令指示がなくても、まごまごして機会を失うようでは、陛下の軍人とはいえませんよ」という精神です。ここでは「独断専行」を奨励しているのです。

 「然れども」以下がありますが、具体的にどういう場合という注釈はなく、それこそ「直接天皇の御名御璽をいただいた」命令に位置するものですから、これに対する一切の疑義・批判はさしはさめなかったのです。
 
 これが、昭和13年の『作戦要務令』に受け継がれ、さらに戦後になっても、陸上自衛隊がこれを参考に『野外幕僚勤務・野外令』を作ったとされています。それならば、イラクに派遣されていた佐藤正久元隊長や、この間問題になった田母神元空幕長の発言も不思議ではない、ということになります。
  
 統帥権の独立
 
 統帥権とは、軍隊を統率し、指揮命令する権利です。旧帝国憲法は、それを次のように定めています。

 第十条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
 第十一条 天皇ハ陸海軍ノ編成及常備兵額ヲ定ム

 昭和5年にロンドンで軍縮会議が開かれました。日本からは、若槻礼次郎元首相、幣原喜重郎外相らが出席し、海軍の軍艦の数を制限する条約に調印しました。これに海軍当局は猛反対し、また野党政友会も鳩山一郎を先頭に政府を猛攻撃しました。

 この時持ち出されたのが「統帥権の独立」です。つまり、軍艦の数をどうするかなどは、そもそも天皇が決めることで、政府や全権大使が勝手に決めてはいけない、憲法に定められた天皇の権限を侵すことになる、というわけです。

 明治時代にはこんなことは起きませんでした。政府、議会の中枢に維新以来軍隊をリードしてきた元勲がいて抑えてきたからです。しかし今回は、海軍・軍令部の担当少佐が切腹したり軍令部長が天皇に辞表を提出するなど騒然となり、機会をうかがっていた右翼がこれに乗りました。

 浜口雄幸首相は、昭和5年11月14日岡山出張のため東京駅のフォームにきたところ、右翼団体構成員の銃撃にあって瀕死の重傷を負いました。そして9か月余の療養の後一命を落としました。こうして、その後相次ぐ政治テロの最初の犠牲者となったのです。 

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