非武装中立の否定
「反戦塾」は、憲法9条改正に反対しますが、自衛隊はあった方がいいと思っています。ただ現在の米軍の付属品(プラグ・アンド・プレー)のような自衛隊運用には反対です。ましてや、田母神元幹部のように国際問題を勝手に解釈し、独走するような自衛隊なら、今すぐにでも解散すべきでしょう。
自衛隊の目的は、日本国民と国土をしっかり守ることにつきます。国外に出ていって戦争をするためではありません。その機動力を生かして災害復旧や、国際貢献に奉仕することも目的に入れていいでしょう。しかし戦争をするために出動するのではないので、武器を持っていく必要はありません。
外国へ行くためには、その国や国連からの要請があること、その国に紛争や内戦がないこと、護身用以上の武器の必要がないことなど厳しい制約が必要でしょう。それならば、日本を守るためにどれだけの装備や兵員があればいいかということになります。
話は飛びますが、必要な武装をした上で永世中立国を宣言し、世界もそれを認めている国にスイスがあります。スイスは徴兵制度があり国民皆兵の国です。中立を厳守するため、最近まで国連にも加入していませんでした。
だからといって、国際貢献をしていない、などとの非難はありません。国連のいくつかの機関がスイスにあり、平和会議などもたびたびこの国を選んで開かれます。小さな国ですがその軍備は、敵国が侵略しようとしても、損害の大きさを考えると断念せざるを得ないというという水準を保つのだそうです。
したがって、兵器産業が発達し高いレベルの装備を備えています。ただそれが輸出されているというのは感心しません。スイスの武装中立は非情に古い歴史の中から生まれてきたものです。またその伝統は、民主的な国民の意思のもとで多少の変化があってもさらに続くと思います。
日本はなにもスイスと同じである必要はありませんが、長い戦乱の中から生まれたスイスの知恵は参考になると思います。国を守るという国民の強い意志が永世中立の保障となっているということです。私もかつて一部政党のように、段階的に自衛隊を解消するなどのことを考えていたことがありました。
しかしこのところ考えが変わりました。それは二つの理由からです。一つは、憲法で前文でいう「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」というのが文字通り「人間相互の関係を支配する崇高な理想」によっているということで、現在その段階に達していないということです。
その実例は、このまえのアメリカのイラク攻撃や北朝鮮の瀬戸際恫喝外交を見ればわかることです。国連ですら「諸国民の公正」を完全に担保しているとはいいきれないのが現実です。もう一つの理由は、日清戦争以降の日本の戦争のあり方です。(バックナンバー「朝鮮・韓国」「日中関係史」等にあります)
これを朝鮮・中国という相手のせいにしてしまうのは、大変気のひけることですが、やはり当初は両国ともに自分の国を自分で守るという一致団結した体制がなかったことは間違いありません。日本は隣の家が火事になりそうなのに知らぬ顔はできない、放って置けば火の粉をかぶる、という理屈です。
したがって、国防に無関心または人任せというのは、隣近所にとって本当は迷惑なことなのです。世界で5,6番目といわれる自衛隊の予算が本当に必要なら維持すべきで、もし不足するなら(そんなことはないと思いますが)増額だってあり得ます。
中国が不安を抱くのは、専守防衛の自衛隊ではなく、同盟国アメリカの攻撃能力であり、「村山談話」を否定したり憲法を改正して戦前の姿にもどそうという日本の国内勢力の存在です。そういった勢力が「日本は悪くなかった」と、主観的にいうのは勝手ですが、歴史学の上でも世界でも通用しません。
9条を守り抜き、日米同盟のあり方を検討しなおす、そんな国の前例がないといいますが、スイスも前例があってそうしているわけではありません。軍縮とか環境とかがこれから世界の潮流となろうとしている時、周辺国や世界の大多数の国から歓迎されるような旗を掲げることこそ、最大の安全保障ではないでしょうか。
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コメント
かなり現実的な、お考えだと思います。大体賛同します。
ただ、日本はここ千年、遣唐使廃止以来、中国の全ての王朝、国民党政府および朝鮮戦争は米国を通して、必ず一度は交戦しています。これは偶然ではなく、地政学的なものであります。中国はアメリカを恐れているでしょうが、それが抑止力として彼らの先制攻撃への誘惑を引き止めているのです。アメリカがグアム以東に引き下がることは、中国にとっては台湾の武力統一および沖縄の占領、日本の事実上の傀儡化を意味するでしょう。攻撃されることがないと分かっていれば、先に攻撃を仕掛けることになるでしょう。
もし、フセインがアメリカ本土を攻撃する能力を多少なりとも持ち合わせていれば、イラク戦争もなかったか、別の形を取ったと思います。
次に日本の専守防衛というのは日米同盟が前提条件です。要するに、自衛隊が侵攻してくるソ連軍+周辺共産国軍に対して防御→その間に米軍がソ連に攻め込む→ソ連の重要都市を占領→和平交渉という戦略です。
今はそれが、仮想敵がロシアから中国に移っただけのことです。ヨーロッパ戦線が関係しないということがソ連の時とは異なるくらいではないでしょうか。
ともかく、日米同盟がないと、北方領土を譲ってでも、ロシアを味方に引き入れないと、専守防衛戦略は破棄しなければなりません。さもないと戦争抑止に役立ちません。補給の問題も生じます。
過去千年、日本は中国の全ての政権と交戦経験があり、敗北したことはありません。
現代でもアメリカなしでも補給が保障されていれば、自衛隊は今の中国が相手でも負けないでしょう。それがために、どこかの大陸国と連絡が取れていることが前提です。太平洋戦争の敗北原因の一つは、海外からの補給が米軍の通商破壊作戦によって途絶えたことです。東京大空襲や広島長崎よりも、戦争遂行については影響大だったと思います。太平洋の島々で死んでいった日本兵は戦死ではなく餓死したのです。補給がなければ、戦わず死んでしまいます。
第二次大戦前半で島国イギリスがドイツ軍の猛攻を防ぎきれたのもアメリカの経済連絡が取れていたからだと思います。
中国を敵とすれば、友はロシアかアメリカしかなく、ロシアとアメリカを比べれば、残念ながらアメリカしか日本に選択はありません。日本列島が中国大陸の横の海に浮かんでいる以上仕方ありません。
軍縮には賛成しますが、それには中国の同時軍縮も必要です。ですが、まったく逆のことを中国はやっていますよね。そんな国が常任理自国なんて国連など信用できませんね。さもないと日本人はチベット人になっちゃいます。
投稿: ツーラ | 2009年3月 1日 (日) 15時18分
私もツーラさんとこの反戦塾の意見にほぼ賛成です。ただ少しだけ付け加えます。というのは小熊英二さんによると、いつのデータかはわかりませんが、中国北朝鮮の海軍が全軍で攻めてきても、自衛隊のイージス艦6隻あるうち3隻あれば射程距離外から全滅できるとのことです。(海上自衛隊幹部の匿名座談会を読まれたのことです。私もこれを読みたい。)恐らく今現在でも、ロシア中国北朝鮮が極東の全軍で攻めてきても、海上・航空自衛隊だけで、人的被害をほとんど出さず、対処できるでしょう。だから陸自のテロ対策部隊以外はほとんどいりません。最新型の戦車を買い揃えるくらいなら、イージス艦買ったほうがよっぽどいい。
ただ、これからの中国の軍拡次第ではどうなるか分かりません。中国には軍拡するカネがありますが、日本アメリカにはありません。少ないカネでどうやりくりするかという判断は必要です。そのためにはやはり米軍もある程度は必要です。
中国との対処法としては、無用のケンカせず、経済文化学問では仲良くし、悪い奴・非常識な奴以外の中国人とは仲良く(これはすべての人間に言えること)することは大事です。
その上で、東アジアで日中韓北朝鮮ロシアアメリカで、核を含む段階的かつ同時な軍縮に繋げるべきです。
あと、我々が気を付けることは、日米が中国と対立することで、日米の武器屋と高級軍人・軍事官僚どころか、中国の武器屋高級軍人・官僚が得をするという構図を見抜かなくてはなりません。というのは軍事予算が増えることで、日米中の武器屋がそれぞれ儲かるのです。ケンカしているように見えて、ある面で潜在的に手を握っているのです。我々はこれに乗せられてはいけません。この点は「ネトウヨ」を説得する上で極めて有効です。
投稿: けんちゃん | 2012年10月15日 (月) 03時43分
ツーラ さま
随分前のコメントですが、見落としておりました。今も見ていただいているとすれば、この場でお詫びします。
けんちゃん さま
コメントありがとうございました。
「改憲の流れ、危険水域に」にいただいたコメントとあわせ、関連するものとして「関東軍と中国人民解放軍」を本文で書きました。どうぞご笑覧ください。
投稿: ましま | 2012年10月15日 (月) 13時50分
中国が日本に侵略行為を働いた後に米軍が核武装国家の中国相手に一戦設けるでしょうか?米国の要人が口を揃えて言うには、NOです。自国民が脅威に晒される可能性がある行為を、たかだか極東の見張り役としての日本のためにするわけありません。日米安全保障の軽薄さはここにあり、従って日本はスイスのように重武装中立化を目指すべきです。対米従属の御伽噺からそろそろ脱却したいです。
投稿: あ | 2015年5月14日 (木) 09時05分
まったくおっしゃる通りで、このまま安倍政権のもとで9条を改正したら日本は間違いなくアメリカの属国になります。
しかも属国ですかから、アメリカ本土に危険が及ぶことが予想されれば見捨てられる、むしろ中国と協働した方が経済の面でも安全保障の面でもプラスになると考えるのが、国際的力学上もコモンセンスといえるでしょう。
それを否定する人は、いまだに国際共産主義の存在を信じているのでしょうか。日本が防波堤になるという論理がアメリカにあると思っているのでしょうか。ウクライナだって口先だけで本気でものをいっていません。
アメリカはいろいろの勢力や人種・思想をごった煮にしたような国です。それに比べると日本は単細胞思考になりがちで、心配です。
投稿: ましま | 2015年5月14日 (木) 09時56分