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2009年1月16日 (金)

派遣労働者と差別

 正月の日比谷派遣村報道で、派遣のありかたからさらに範囲をひろげて「労働問題」が議論さるようになった。それに反して、派遣村の発生が組織の宣伝活動であるとか、仕掛けられた作為あるイベントだなどとする暴論はもとより、セフティネットがあれば足りる、といった矮小化した議論にしてはならない。

 秋葉原の大量無差別殺人事件は、言語道断の犯罪事件であるが、その動機として浮かびあがったのが、派遣労働が持つ非社会性である。その前一昨年には、すでに赤木智弘氏が論文「希望は戦争」でこういった問題を提起をしている。

 これらは、もしかして大化改新、明治維新、戦後民主化に匹敵するような「労働のありかた」が問われている時代と考えるのは、おおげさに過ぎるだろうか。「階級」や「身分」という言葉や発想は、共産主義の退潮とともになりをひそめた。

 しかし、正社員と派遣、期間労働者などの区別は、新たな階級差別を創出するものではないのか。私には専門知識がないので、その分析や打開改善方策を提示することはできないが、戦中派の記憶に残る身分制について書いてみたい。

 わが家はサラリーマンの家庭だったので、農業における戦前の小作農と大・中農の差を身近に体験したことはない。ただ、40代に自宅を購入した際、近所の大地主のおばあちゃんが、孫の手をひいて遊びに来て、孫に「ここの家は家作持ちだよ」と教えているのを聞いた。あきらかに、近所に在住する旧小作人との区別をさしているように聞こえた。

 製造業会社の社員であった父の勤務先工場には、大勢の職工がいた。彼らは集合社宅に住んでいたが、社員のそれとは違って、家族の人数にかかわらず狭小で立地も悪かった。また、職階も組長とか職長という、軍隊で言えば下士官どまりで、社員との身分上の格差は歴然としていた。
 
 また、事務所にもボーイと呼ばれる使い走り的な仕事をする人がいた。この人達も「社員」とは呼ばれず「雇員」として差別された。ただし、会社との雇用関係には変わりなく、戦後労働組合が結成されると一体化し、一切の身分制職階は撤廃された(ただし実際には学歴格差などで温存された部分もある)。

 これには入らない勤務者がいた。嘱託である。社内に常駐している床屋さん、社員食堂賄い人、寮管理人、看護婦などである。つまり会社にとって必要な仕事は、すべて会社が雇った人の手にゆだねられていたのである。

 戦後10年もたつと、変化が出てきた。それまで社員がやっていた清掃、警備、廃棄物処理などについて、専門の下請け会社に委託するようになった。それらは、有能な定年退職者によって起業されたものも多く、民間の天下りはそんなところから始まっている。

 また時代が進むに連れて、現業部門の下請け業務は拡大し続け、労働組合も下請け労働者の組織化などを方針に掲げるようになったが、組織の命運をかけて取り組むようなことはなかった。賃金、福利厚生なとの歴然とした差は見過ごされていったのである。

 現在、大企業の労働組合は、製造業への派遣禁止措置などに消極的で経営者と歩調を合わせているように伝えられている。その中に「彼らとは身分が違う」という意識が全くない、と断言できる人が何人いるだろうか。

 戦中の人手不足、戦後復興、高度成長と続き、身分の差で雇用調整をするような場面はあまりなかった。また身分の差はあっても、日本固有の労働神聖視や終身雇用制度が労働者の精神的・経済的破綻を防いできた。このさき、日本が選ばなければならない「労働」のあるべき姿をどう定めていくのかが問われている。

 かりそめにも、身分を固定化して差別を助長するようなことがあってはならない。決してアメリカの真似をしてはならないのだ。そのためにこの問題にどう手をつけていくか、為政者の判断と責任は極めて重い。また、同時に労働者自身にも大きな責任があることを自覚しなければならないだろう。

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