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2008年12月15日 (月)

朝鮮・韓国 16

山県有朋の利益線論
 山県有朋といえば、長州藩の出身で松下村塾から奇兵隊、明治時に入ると政府の中枢にいて各大臣から首相まで歴任した元老として有名です。中でも陸軍とのかかわりは深く、帝国陸軍の生みの親といっていい存在でした。

 前回記事にしたイギリスの巨文島占拠のあった後の1988年(明治21)、山県は内務大臣ながら伊藤博文首相に対して、ロシアのシベリア鉄道が開通すると英・ロの朝鮮を舞台にした戦争の可能性が高まることを上申し、軍事費増強を主張しました。そうして、このように締めくくっています。

 我国の政略は朝鮮をして全く支那の関係を離れ自主独立の一邦国となし、以て欧州の一強国、事に乗じて之を略有するの憂いなからしむるに在り。(軍事意見書)

 山県は、日清戦争で第1軍司令官をつとめ、中国本土まで進軍させた張本人ですが、この頃は、朝鮮侵略の意図がなかったようです。また、1890年(明治23)首相になった山県は、意見書「外交政略論」の中で、日本の独立自衛のためには、「主権線」と「利益線」を守ることが必要だと主張しました。

 「主権線」とは、我が国の領土・領海そのもので、「利益線」とは「主権線」と密接な関係のある隣接地域だといっています。そして、ズバリ「我邦利益線の焦点は実に朝鮮に在り」と断定しました。この発想はどこから来たのでしょうか。

 加藤陽子氏の研究によると、伊藤博文の憲法起草準備に大きな影響を与えた、当時ウィーン大学教授のローレンツ・フォン・シュタインではないかといいます(『戦争の日本近現代史』講談社現代新書)。山県は1988年に欧州派遣を命じられました。その際シュタイン氏に細部にわたり質問した事項に対する89年6月付の解答書が史料として残っており、上記の主張とよく符合するからです。

 山県は、それに自らの発想も加え、第1回帝国議会の施政方針演説に取り込みました。このシリーズ14でわずかに触れましたが、朝鮮でも外交、安全保障に欧州人の知恵を借りています。それは、清国の推薦で朝鮮の外交顧問となったドイツ人のパウル・ゲオルグ・フォン・メレンドルフです。

 ところが、メンドルフはロシアと朝鮮をロシアの保護下に置こうとすることを画策、同国と密約を交わしたことが国際的に暴露されました。これは、当然日・清をはじめその他の各国からも猛反発を受けます。朝鮮の宮廷ではメンドルフにこの責任すべてをかぶせ、解任・追放することでこの件の幕引きをはかったのです。

 こういった日本と朝鮮の違いが、後々の両国関係に不幸をもたらしたとはいえないでしょうか。朝鮮が独立を果たせなかった原因に、日本の資本による経済支配をあげることがありますが、次元が違う話でやはり直接結びつけるのは無理があるように思います。

 それにしても、「利益線」というのは、その次の時代の松岡洋右が「満蒙は我が国の生命線」という発言をして姿を変えました。さらに太平洋戦争直前には、大本営が満蒙から中国、東南アジア、インド、南洋諸島、オーストラリア、ニュージーランドにまで「利益線=生命線」を拡大させたことは、さすがの山県も想像できなかったことでしょう。

 日米同盟でかつて論じられた「極東の範囲」とか、アメリカの軍事戦略に関係する「不安定の弧」などという言葉も、この利益線の概念に相当するのかも知れません。ブッシュの戦略のように、地球をひと周りしてしてしまえば、もはや意味をなさなくなってしまいますね。イラクの新聞記者に靴を投げつけられるのも、むべなるかな――と思います。
  

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