チベットと妥協の機会を逃すな
アサヒ・コムによると、今月末に北京でダライ・ラマ特使と中国側の対話が予定されているという。一方で11月17日から22日にかけ、各地から数百人の亡命チベット人を集めた緊急会議がダライ・ラマの提唱で開催される計画もある。
ここで、ダライ・ラマの対話路線を総括し、これまでの方針を継続するか変更が必要なのかが議論されるらしい。73歳に達したダライ・ラマのあとを継ぐ亡命政府が、今後執るべき方向を模索することになる。緊急会議にはダライ・ラマと路線を異にし、独立を求めるチベット青年会議も参加する予定だ。対話路線以外にどんな道があるのか、難しい議論が予想されている。
またダライ・ラマは、今月31日来日し福岡・東京などで講演をする予定があるという。そこでは、北京会談の結果を受けての発言・動向などに、大きな注目が集まるだろう。ダライ・ラマの対話路線は中国政府はもとよりチベットに同情を寄せる人の間でも十分理解されていないように思う。
文末にダライ・ラマの説教講演会の一部を引用するが、その内容は明らかに中国政権との折衝を意図したものと思われる。中国は建国当時チベットが国民党政権の逃亡先になり、共産党政府の宗教弾圧を予想して対敵していた事情がある。それに宗教を麻薬をみなして軽視した過去の土壌も残っているだろう。
また、共産党の一党支配の体制の中で、一部にコントロールの利かない権威を認めると、全体主義的なシステムがこわされるという心配があるのかも知れない。さらに、少数民族に特別な保護政策が採られたいることも知っている。しかし、四川地震の災害を乗り越え、オリンピックを成功させた国だ。
これが、自由と人権で世界のレベルに達していないという疑念を払拭する最後のチャンスになるかも知れない。仮にチベット青年会議など妥協を拒否する強硬派に口実を与えるようなことをすれば、東洋の安定に悲観的な火種を残すことになる。イスラム圏各地で起きている「文明の衝突」を思わせるような果てしない抗争がいい教訓だ。ダライ・ラマと妥協和解を目指すよう中国政府に強く求めたい。
人から不当な扱いを受けたなら、第一にその状況を分析しなくてはいけません。自分がその不当な扱いに耐えられると思え、そうしてもさほど悪い影響が出ないと思えば、容認するのがいちばんだと思います。しかし冷静に判断して、容認すればさらに悪い結果につながるという結論にいたったら、その時は適切な対策をとらなくてはなりません。この結論は、状況を正しく認識した上で出されるべきで怒りに任せて出すべきではありません。怒りや憎しみは自分にとって、その問題を引き起こした人よりも有害なぐらいです。
あなたの隣人があなたを憎んでいて、いつもその人に問題を起こされているとしましょう。それに頭にきて憎しみをつのらせれば、あなたは食欲を失い、眠れなくなり、精神安定剤や睡眠薬を使わなければならなくなります。そのうち服用量が増えてきて体に毒となります。気分もすぐれません。
その結果、古い友人もあなたを敬遠するようになります。しだいに白髪が増え、しわが増え、最後には深刻に健康を害するかも知れません。そうなったら、あなたの隣人はじつに満足でしょう。自分ではまったく手を下さずに望みをかなえられたのですから!
彼に不当なことをされても、心穏やかなまま、幸せに、平和にすごしていたら、あなたは健康を害することもなく、前と同じように楽しくいられます。友人たちもちょくちょく訪ねてくるでしょう。これこそ隣人の心に不安をもたらします。これが隣人を悩ませる賢明な方法だと思います。
(塩原通緒訳『ダライ・ラマ世界平和のために』ハルキ文庫、1999/8/15ニューヨーク市セントラル・パークでの講演より)
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