« 洋上給油に拒否権を | トップページ | 陽光 »

2008年10月 1日 (水)

御名御璽

 新首相・麻生太郎のどことはない「軽さ」が気になっていたが、それが具体的には何なのかわからなかった。それをはからずも露呈してしまったのがこのたびの所信表明演説である。「畏くも御名御璽をいただいて」総理大臣を拝命したというくだりである。

 御名御璽というのは、天皇のサインとはんこのことで、それを「いただく」といっても文法的にあやまりではないが、このような使い方を聞くのははじめてである。読売のコラムで、彼の祖父・吉田茂元首相が「臣・茂」と言ったのをなぞったつもりだろうと書いていたが、私もそれに気づいていた。 

 吉田の発言は、今上天皇の立太子の礼の祝辞の中にでてくる天皇家に対するお祝いの言葉である。つまり定型化された祝詞(のりと)のようなものだ。明治・大正に育ち、白足袋を愛用する一方、大使として英国の貴族趣味を仕込んだ吉田ならば、自然にでてきそうな言葉である。

 それでも、時代錯誤で封建思想とさんざん叩かれたものだ。それと麻生発言は全く違う。天皇家に向かっていう言葉ではなく、国民に向かって言っているのだ。戦中は「畏くも」と言っただけで、国民は立ち上がり不動の姿勢をとるよう仕込まれた。

 次ぎに、首相に選んだのは天皇でなく国民(衆議院)である。憲法に疑義をいだかせる中山発言におとらない失言だが、誰も問題にしない。戦後は遠くなりにけりで不感症になっているのがこわい。安倍元首相の「戦後レジーム」一掃、戦前回帰にも結びつきかねないという不安さがあるからだ。

 この言葉は、尊敬してやまない亡き祖父と自らを支える右派勢力に捧げたつもりなのであろう。しかし言葉そのものは、すべて中国にその原典があり、「臣・茂」などの使い方は、すでに室町時代に大問題になっていることを、右派の方はご存じだろうか。

 使ったのは、「媚中派」足利義満である。明あて国書に「日本国王臣源表す、臣聞く……」と書いた。それで勘合貿易を許され、元・明時代の文物が入ってきた。この多くは現在国宝に指定され、日本文化の形成に役立っている。

 この義満に対し、宮中筋の評判はよくなかった。しかし、こういった文物を一番欲しがっていたのも宮中筋である。麻生首相の「軽さ」は、結局こういった歴史や文化に対する知識の裏づけのない、言葉は悪いが「品格」を欠く発言や行動のせいではなかろういか。

|

« 洋上給油に拒否権を | トップページ | 陽光 »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

「畏くも御名御璽をいただいて」とか、
118年の憲政の大河なんて言葉が国会の、それも首相の国会での始めての仕事である所信表明で聞けるとは麻生太郎本人の頭の中身が透けて見えますね。
68歳らしいが可哀想に生まれて4歳程度でで成長が止まり時間も止まってしまった
それにしても、この人の今までの失言暴言の数々は、誰かに突っ込まれて思わず口走ってしまったウッカリ失言と言うよりも、今回のように得意満面、良く考えた上でのサービス精神からの発言が殆ど。
多分、お友達の自民党文教族(中山失言)に対する援護射撃なんですよ。
御名御璽のついでに暴支庸懲も言ってくれれば漫画オタク支持者の人気はウナギノボリ。ついでに暴鮮庸懲も新しく加える。
明るくて強い日本を造るらしいが、世の中で周囲が一番困っるのは『ヤル気のある馬鹿』
今度の総選挙では、みんな揃って『暴自公庸懲』でいきましょう。

投稿: 逝きし世の面影 | 2008年10月 1日 (水) 15時00分

戦前の大物右翼は人並み以上に勉強していたと思います。それが美濃部教授の天皇機関説攻撃の頃から怪しくなった。
というより、勉強しなくても軍隊やテロリストが助けてくれるので言うことなす事マンガチックになった。
その伝統の悪しき部分をひきずって得意然としいてるようでは、草葉の陰で臣・茂が嘆くことでしょう。

投稿: ましま | 2008年10月 1日 (水) 17時06分

しかし、現在の憲法では国権の最高機関である国会の指名と天皇陛下の任命がないと総理大臣の職を拝命できないため、御名御璽をいただくというへりくだった表現は当然のことと思います。

投稿: tko | 2008年10月21日 (火) 04時49分

本文の表現が不完全でした。訂正します。
「畏くも」は「天皇陛下」にかかる言葉で、ハンコやサインではない。また「いただいた」のは辞令であって御名御璽ではない。
昔風に皇室に敬意を表するならば、言葉としてこなれていなく、新聞記者がそんな書き方をしたら不敬でクビになっていたかも知れません。
要するに格好をつけたけれど軽薄な印象はまぬがれず、戦前の天皇神格視につながる「畏くも」などの表現を国民に向けて公言する神経を問題にしたものです。

投稿: ましま | 2008年10月21日 (火) 07時54分

>また「いただいた」のは辞令であって御名御璽ではない。

その辞令は文書ではないんですか?
それとも判も押されていなければ署名も無い書類なんですか?

投稿: おせん | 2008年11月 1日 (土) 01時25分

再々度補強させてください。
「御名御璽」は、昔勅語や認証文書を複製または朗読する際、記名捺印があるところに「御名・御璽」と書き、または読み上げる際に使った言葉です。
従っていただいたのは何でしょうか?。
総理大臣の地位?認証式の辞令文書?、それともハンコと名前?。
「私は、天皇の玉爾と裕仁という名前をいただいてきた」などと不用意に言ったら、戦中なら不敬罪でひっかけられるかも知れません。途中の言葉が随分省略されていますね。

投稿: ましま | 2008年11月 1日 (土) 09時52分

今は戦中じゃないんだから、別に良いじゃん。多少古臭い言葉を使おうが、少しばかり文法が間違っていようが、どうでも良い。言葉も自由に使えないんじゃ、それこそ戦中と変わらんよ。

投稿: ATM | 2011年1月25日 (火) 19時50分

知らないなら使わなければいいのですよ。もっとやさしい言葉がいくらでもあるから。言葉は時代とともに変化します。

同時に、日本語(といってもこの言葉は中国から伝わった音読みですがね)の正しい意味を守り、後世に伝えていくことは文化を守る、という意味で正しく、どうでもいい問題ではありません。

投稿: ましま | 2011年1月26日 (水) 10時29分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/468248/24167981

この記事へのトラックバック一覧です: 御名御璽:

» 【小沢民主】どちらの演説が所信表明演説の名に相応しいか総選挙で決するべき【金満ジミン】 [ステイメンの雑記帖 ]
 アメリカ発の金融危機が世界的な危機に発展し掛かっている今、日銀が 9月の企業短期経済観測調査(日銀短観)を発表 した!  それによると、  ・大企業製造業の業況判断DIはマイナス3、 4期連続悪化、5年3カ月ぶりマイナス  ・大企業非製造業はプラス1、 5期連続悪化  ・中小企業製造業はマイナス17、 3期連続悪化   ・中小企業非製造業はマイナス24、 6期連続悪化  ・大企業製造業の08年度設備投資計画は 前年度比5.6%増   ・大企業製造業の08年度経常利益は前年度比10.4%減、 7年ぶ... [続きを読む]

受信: 2008年10月 1日 (水) 20時49分

» これは所信表明演説ではないね [飯大蔵の言いたい事]
 麻生首相の所信表明演説なるものが新聞に載っている。どう見てもこれは所信表明演説とは思えない。  麻生首相:所信表明演説(全文)    冒頭、人を驚かす表現が出てくる。わたくし麻生太郎、この度、国権の最高機関による指名、かしこくも、御名御璽(ぎょめいぎょじ)をいただき、第92代内閣総理大臣に就任いたしました。  わたしの前に、58人の総理が列しておいでです。118年になんなんとする、憲政の大河があります。 大日本帝国が未だに続いているのかと思わせる言い方だ。やめた大臣と大差ない認識...... [続きを読む]

受信: 2008年10月 1日 (水) 23時30分

» 麻生太郎は本当に日本国内閣総理大臣なのか [よく考えよう]
このブログを何時も見て頂いて下さっている方々には石原伸晃を押していたのでお分かりのように自民党支持である事はお分かりだろうと思う。 [続きを読む]

受信: 2008年10月 2日 (木) 09時24分

» 麻生太郎首相の衆議院解散を占う [逝きし世の面影]
『意味不明の地味な麻生太郎内閣』 今回の組閣の評判が悪い。 『超お友達内閣』とか、『俺様だけ目立てばよい内閣』とか。一般のマスコミの褒め言葉(ご祝儀)が全く無い。 選挙で勝つ為の華やかさが無い。サプライズ人事とは到底いえない地味さ。 名前を知られた政治家の名前が殆ど無い。 かといって各省庁の専門家、実務家集団とはいえない派閥重視の順送り大臣が目立つ。「目立たない」のが目立つようでは救いが無い。 何時もなら自民党新内閣なら必ず褒める週刊新潮までが辛口で全く褒めていない四面楚歌状態。 何の為に麻生太... [続きを読む]

受信: 2008年10月 5日 (日) 13時47分

« 洋上給油に拒否権を | トップページ | 陽光 »