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2008年8月28日 (木)

美しい誤解に安住するな

 アフガニスタンでNGO「ペシャワール会」のスタッフの伊藤和也さんが拉致殺害された。美しく高い志がこのような結末を生んだことは、まことに心が痛む。衷心よりお悔やみを申し上げたい。「美しい誤解」、以前何回か取り上げたことがあるが、もう一度この事について考えてみたい。

 そこで強調したいのは日本の役割です。これまでアフガニスタンの「治安分野改革」で成功したのは、日本の武装解除だけです。なぜか。現場の私たちは「美しい誤解」という言葉を使いました。アフガン人はテロ特措法など知りません。日本は軍事行動をしていないという「美しい誤解」が、疑心暗鬼の武将たちに信頼醸成させた。

 これは、アフガニスタンで武装解除日本政府特別代表を務めた、伊勢崎賢治氏の発言である。私はこれにも「美しい誤解」があると思う。アフガン人は善意の第三者なら誰でも喜んで受け容れると考える「美しい誤解」である。

 これは、現地をよく知る伊勢崎氏だからこそ言える言葉であって、人道支援とか貧困解消、あるいは国際貢献といった美名のもとでおこなう活動なら必ず誠意が通ずる、というある種の“お人好し”信念とは意味が違うということである。

 犯人の組織や目的はわからない。そこにいわゆるイスラム原理主義というものが存在するとすれば、神はひとつ、ユダヤ教徒やキリスト教徒はその共通の神をいただく「経典の民」で、条件次第で融和や結婚も許されるが、その他の宗教は「異教徒」で戦争をする相手である。現地の言葉を話すだけでは駄目でなのである。

 タリバンが復活、優勢となるなかで大麻栽培が盛んになり、それがゲリラ活動の資金源になっているという。現地の人が喜んでいるにしろ、農地に稲やサツマイモの栽培を普及、定着させることは、タリバンにとって、カルザイ政権やアメリカなど駐留外国軍を支援することにつながる。

 ムスリムは客人をよろこんでもてなす。しかし、女性が肌を見せることに平気な欧米や、異教徒にながく居座ってもらいたくないないのだ。これはサウジアラビアでもイラクでも、厳格なイスラム信仰を保とうとする国なら当然なことだ。

 イスラム教国に限らない。ロシアがグルジアの国境を越えて、戦車を繰り込み軍艦で小国を脅迫する。ロシアの言う「民族自決」「治安維持」「邦人保護」「独裁排除」それに「自衛」、これまでの歴史でさんざん使われてきた戦争合法化の口実である。

 日本の大陸侵攻はすべてこの伝であった。そして、それらの国民は、日本の善意を理解しようとせず反抗ばかりする、と言って、早く親日政権を作り安定させようとする。それが失敗を許されない大国意識で、占領を長引かせる。今、イラクで、アフガンで、そしてグルジアでも繰り返されようとしている。これを「侵略」という。

 国、あるいは国連という組織が現存する限り、軍隊に国境を越えさせなくてはならないという事態はありうるだろう。かりにそうだとしても、その国を他国の影響下や支配下に置こうとして居座ることは許されないし、問題解決を遠のかせ、はるかに多くの犠牲者を生むだけだ。

 あとに問題を残しても、内戦が起きても仕方がない。国連では解決しないからといって他国が介入すれば、紛争は世界にひろがる。軍隊を緊急避難的に入れることがあっても、何年にもわたってはならない。NGOは性格が違うが、一応の目的を果たしたらあとは現地にまかせて引きあげるよう心がけるべきだろう。

 

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中近東」カテゴリの記事

コメント

 日本帝国主義を肯定するつもりはまったくないですが、現代にいたってもなお多くの戦争や弾圧が当時の日本と同じ論理で行われていますね。
 日本にはもっと声を上げる権利と義務があると思うのですが。

投稿: locust72 | 2008年8月28日 (木) 17時37分

locust72 さま。
近代史を精査すればするほどそうなってくる。
bearing

中国もそれを言う権利があると思うんだが、ミイラ取りがミイラにならぬとも限らないし……。

やはり日本がバカみたいに言うしかないのですけど。
sad

投稿: ましま | 2008年8月28日 (木) 17時53分

「美しい誤解に安住するな」の主張、ちょっと
いくらなんでもあんまりですよ。

他国が介入すれば紛争が世界に広がるから、
現地にまかせて引き上げて、あとに問題を残して
も、内戦が起きても仕方がない、と知らぬ振り
ですか??

内戦が激化したら当然他国にまで飛び火するで
しょうし、国内で虐殺が起きたり女子供が奴隷に
なったりすることが一体何回繰り返されて来ま
した?状況が好転することはまずありませんよ。
放って置いて事態を自分たちで収拾できる国は
そもそも内戦なんて起こさないものです。

民度の低い国の人間は、底辺校の生徒と同じ。
しっかり導かなければ、まっすぐ暴力といじめで
サル山形成に走るだけです。

ただ単に反戦という結論に持って行きたいが為に
このように主張されるのであれば、あまりに乱暴
で幼稚な主張です。

投稿: 猫が好き♪ | 2008年8月28日 (木) 22時59分

猫が好き♪さま
コメントありがとうございました。

<乱暴な主張
そのとおりです。わたしもナチスのこととかジェノサイドを考えました。この表現はやめようと思いましたが、あえてそのままにしました。
理由は文中にあるように、国連などによる緊急避難的な行動は否定していません。ただ予防とか再発とかの理由をつけて軍隊が居座ることに反対しているのです。国家の干渉や介入がなければ、そんなことは起きません。

<幼稚な主張
これは返上します。内乱はその国の中で解決すべきです。その国の独立がおびやかされるだけではなく、干渉した国もしっぺ返しを受けます。
身近なところで朝鮮併合、張作霖爆殺、北清事変、柳条湖事件など、双方の主張をよく調べてください。

投稿: ましま | 2008年8月29日 (金) 07時55分

>『タリバンが復活、優勢となるなかで大麻栽培が盛んに』
は間違いでアメリカ軍の支援で政権復帰した北部同盟が復活して大麻ではなく麻薬(アヘン)栽培が軍閥によって大々的に行われ出した。
西側宣伝とは逆にタリバン統治下では、ほぼ麻薬栽培は撲滅されていた。
タリバンは当時、北部同盟を『山賊集団』と呼んでいたが、麻薬に関してはは正しかったようです。

アメリカ軍がはじめた一方的な侵略戦争であるイラク、アフガンとグルジア紛争は性格が異なります。
少数民族の民族自決と其れを支援するロシア軍のグルジア紛争は、99年に民族自決や人権を理由にアメリカ軍(NATO)が武力介入したコソボ紛争と酷似しています。
コソボもアフガンも長い歴史がある複雑怪奇な民族問題に対して、アメリカが突然軍事侵攻して解決しようとした共通点はありますが、どちらも軍事だけでは解決せず、長い時間をかけて政治解決する以外に無い。
この場合に憲法9条の有る日本の外交力が役に立つ。
しかし今のようにアメリカ軍を給油支援しているようでは折角の日本独自の政治力が全く発揮できない。
もったいない話です。

投稿: 逝きし世の面影 | 2008年8月29日 (金) 13時46分

大麻の件はそのとおり。大麻薬密輸組織とあったのを早合点しました。すぐ気がついたのにそのままにしておいたら、やはり(笑)。なにしろその方面はくわしくないので。また以前のタリバンと現状のいわゆるタリバンの同一視はどうでしょう?。
グルジアとイラク、アフガン、コソボ、違いはそれぞれよく知っているつもりですが、帝国主義と内政干渉・大国主義にはどこも弁護しません。

投稿: ましま | 2008年8月29日 (金) 15時40分

ペシャワール会代表、中村哲医師によると去年から事態が急激に悪化して20人いたジャララバードの日本人スタッフの半数を4月に帰国させ、残りも年内に出国させることになっていた。
東部アフガンから外国人の姿が消え、最期の外国人がペシャワール会だった。日本人云々よりも最期の外国人だったので狙われたらしい。
現地の情報が正確に日本には伝わっていないようです。
アフガン情勢は末期そのもので、カルザイ政権や多国籍軍は完全に支持を失い何時突然崩壊しても可笑しくない状態です。
しかし日本では民主党前原副代表などが自衛隊の派兵論議をする有様。
代表の中村哲医師も、『対テロ戦争は末期的な段階』で『これほど大規模な形で虚偽が根を張る時代もなかった』
『図らずもアフガニスタンでの体験を通して、これだけ通信・交通手段が発展しながら、情報コントロールが可能なことを思い知らされた』
今の報道は可也事実と異なるようです。
伊藤和也さんは治安の悪化が余りに凄すぎて、事態の急変に対処し切れなかったのでしょう。

タリバンの実体ですが、日本で知られているタリバンと現地で知られているタリバンには可也の違いがあるようです。

投稿: 逝きし世の面影 | 2008年8月29日 (金) 17時44分

ましま様

>ただ予防とか再発とかの理由をつけて軍隊が居座ることに反対しているのです。国家の干渉や介入がなければ、そんなことは起きません。

それは原因と結果を取り違えています。国連等の
要請により軍隊を投入したら、治安が安定するまで
は継続しなければ無責任です。中途半端は、
誰にとっても最悪の結果しかもたらしませんよ。


逝きし世の面影 様

憲法9条の有る日本の外交力という表現がわかり
ません。他国にとって仲裁役と成り得るのは、
利害関係でどうしても刃向かえない国であって、
国内法でしかない憲法9条の有無は、日本人の
期待とは裏腹に、他国には何の効力もありません。

投稿: 猫が好き♪ | 2008年8月30日 (土) 00時27分

猫が好き♪さま
 最初におことわりします。
 本塾に「コメントのコメントは皆コメント」という考えはありません。コメント欄はあくまで本文のコメントのために公開するという方針です。
 その上で。

1.その国の国民多数が望んでいる場合は「居座る」といいません。
2.国内が割れている場合、片方を正、片方を悪とする権利は外国にありません。外国軍の長期存在は中正を損ねます。
3.最近、国連決議で派兵を決めた例はありません。仮にあったとしても、いつでもいつまでも正しい結論とは限りません。
 以上、歴史や実例をもとにご検討下さい。

投稿: ましま | 2008年8月30日 (土) 10時07分

1 国民多数が望まない場合、その国の政府が
 出ていってくれと言うでしょう。ならば出て
 行けばよい。
2 外国の国内が割れていても、他国がそれに対し
 中立を保つ必要はありません。その国の方針で
 どちらを承認するか決めるのは、その国の勝手。
3 国連決議で派兵を決める=国連軍としての派兵
 は諸般の事情により実現の可能性が低いため、
 国連決議により、有志連合軍の設立が承認される
 等(アフガン)という方針が主流です。
 

投稿: 猫が好き♪ | 2008年8月31日 (日) 21時44分

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