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2008年8月25日 (月)

漂流する安保12

 このシリーズの締めくくりを、と思って書き始め、前回で現在の福田政権にまで到達したが、やはり不十分な点があるので書き足したい。前々回、日米安保条約には、①吉田安保、②岸安保、③橋本安保、④小泉安保の4種類があり、吉田安保をのぞき②、③、④は同じ条文ながら中味が、日米合意文書などですっかりすり替えられている、ということを言った。

 橋本安保は小泉安保の準備期間という面がなきにしもあらずだが、トンビがタカを生んだような変化があったといわざるを得ない。いつの頃からか「日米同盟」という言葉がさかんに使われだした。かつては、左派陣営が「安保は憲法違反の軍事同盟である」と攻撃する際にその言葉を使い、政府は事実上タブー扱いにしてきた。

 現に、鈴木善幸元首相が不用意に「同盟」と言う言葉を使って、弁明に大わらわになったこともある。同じ疑問を漫画家・小林よしのり氏も指摘しており、安保条約と諸協定、合意文書その他をひっくるめたものという解釈があるようだが、国民の理解から遠いところにあってフェアーではない。どうやら私が感じているように、小泉首相時代から意図的に使われだしたようだ。

 そして、前々回指摘した「アメリカ依存(従属)体制こそ正常であり、それにそぐわない憲法が存在することが異常である」という発想が、このころから一人歩きしはじめた。その中心にいるのが右派系政治家、それをとりまく旧外交官、学者、評論家などのブレーンである。

 また、国が国防を中心に公権力強化の方針を掲げてきたため、現場の自衛官や警察官などの中に、この逆転の発想をそのまま受け入れてしまう人がでてきた。そのこと自体が公務員の遵法義務に反する憲法違反なのだが、国政の向かう方向に従っただけで、憲法を否定する彼らに何の痛痒もない。

 そこに、社会的風潮としての中国・朝鮮に対する激しい反感・嫌悪が加わった。アジア諸国に対する度重なる公式謝罪の繰り返しへのいらだち、自虐史観の追求、教科書問題や日教組攻撃などは、それ以前から右傾化傾向として根付いていた。そこへ、在日外国人による一家殺人事件、麻薬や偽造通貨の使用、新手を使った空き巣の増大などが報じられ、さらに隣邦の印象悪化に輪をかけた。

 また、消費財や食品の多くが中国で生産され、商品への不信感と産業空洞化を招いたことも潜在的な脅威となった。拉致問題、ミサイル・核実験、領土問題をはしめ靖国参拝問題、反日デモといったことが、一般国民や若者を巻き込んで対立主義をあおる結果となったのは当然の成り行きである。

 これが日米同盟強化の促進剤的役割を演じたことは、否定しがたい。政府の志向がこれに一致する証拠がもう一つある。それは小泉安保の最後の段階で安倍元首相や麻生元外相が盛んに発言した「(アメリカなどと)価値観を共有する」と言う言葉だ。

 これは明らかに中国や北朝鮮を区別した言葉としてとられ、骨董的反共右翼を元気づけた。このところグルジア情勢をめぐって「冷戦の復活か」という声もちらほらするが、ロシアなどむしろアメリカと価値観がそっくりになり過ぎて国際共産主義など成り立つ余地がなく、中国も独自の道を歩んでいる。

 価値観は、民主主義とか法の支配だというだろう。しかしそのいずれもそれぞれの長い民族の歴史や国民の総意に基づいて各国各様の文化や態様があるのだ。日本とアメリカの間でも決して同一の価値観が存在するわけではない。

 それを押しつけようとするアメリカの勝手はわかるが、それで世界の各国から嫌われ始めているのが現状だ。それをあえて強調してみせるのは、日米同盟を一体化したものにする、つまりそこから見た新たな「排外主義」「ナショナリズム」を構築しようとするものである。米英の2国間のことならともかく、平和を志向する世界の共感を得られるものではない。

 「過ぎたるは及ばざるがごとし」、アメリカや世界に東アジアの緊張など望んでいない。周辺国敵視は、むしろあらぬ野望さえ疑われるというおまけまでつき、ジャパン・パッシングを警戒して北朝鮮の制裁解除延期をお願いしなければならないというチグハグな結果を生んだ。

 こうして、安倍首相に引き継がれた小泉安保の幕切れは、まことに他愛のないものになってしまった。しかし、一旦しみついた隣邦との対立主義・排外主義は簡単に解消するものではない。北京オリンピック閉幕にあたりその評価は真っ二つに分かれている。対立主義の火を燃え立たそうとする国内の動きは依然として活発だ。これに水をかけるのは、良識ある市民の善隣友好の意思表示と行動でマスコミを引き込むことである。

 粘り強く長い時間をかけて相互理解を深める運動を続けるとともに、かりに隣国の政権がこれに反し、偏狭なナショナリズムを利用して自らの地位を強化するような動きがあれば、いたずらに対抗意識を燃やすのではなく、理をもって冷静に説得することが真の安全保障への道である。

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