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2008年6月21日 (土)

つゆのあとさき

 栗の木には強い匂いの花が咲き、柿の若葉は楓にも優って今がちょうど新緑の最も柔らかな色を示した時である。樹々の梢から漏れ落ちる日の光が厚い苔の上にきらきらと揺れ動くにつれて、静かな風の声は近いところに水の流れでもあるような響きを伝え、何やら知らぬ小禽(ことり)の囀りは秋晴れの旦(あした)に聞く鵙(もず)よりも一層勢いが好い。(永井荷風「つゆのあとさき」『日本の文学』中央公論社)

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 昭和6年、銀座の女給を題材にした荷風52歳の頃の小説である。満州事変が起き、これから15年間戦争が続く。世界恐慌はやや小康を得たが、農村や中小企業の苦難と危機には変化がない。昭和7年、神奈川県大磯で起きた坂田山心中事件がきっかけで心中20件が後に続き、翌8年の三原山では自殺男804人、女140人、1日平均3人という狂気の時代だった。

 なにか今の時代と重なるところがありそうな気がする。エロ・グロ・ナンセンスがもてはやされ、重苦しい現実が世を覆ったというが、荷風の描くプロの女性には梅雨時のような湿っぽさがなく、むしろさばさばした野鳥の勢いさえ感じさせるのである。

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