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2008年5月15日 (木)

漂流する「安保」5

 60年安保の頃と現在の保守系政治家の間では、外交感覚に大きな違いがあるように見える。私は当時、安保そのものはともかく、岸首相が強引な国会運営を指揮し、戦後国民が手にした民主主義を破壊するという危機感からデモの後尾についた口であった。

 国会の混乱は、衆参ねじれ現象で3度も再議決をくりかえす今の方がひどいかも知れない。しかし、岸首相があえて強行突破をはかったのは、困難な日米交渉をのりこえ、今こそ妥結させる潮どき、とみたからではないか。昨今の国会混乱は、外国でもない国民でもない、全く政治家のみの責任である。

 ソ連崩壊で、保守陣営にとっては「結果オーライ」になったが、岸としては日本の国際的地位向上と国益確保のため渾身の力を振るったにちがいない。外交交渉の現場は見ることができない。しかし、アメリカ外交は長い歴史の中で、いつも国益を最優先させ、時には強硬に、時には柔軟に対処してきたことが知られている。

 岸には戦前からのキャリアがある。日本の国益とアメリカの国益が一致しないことは当然わきまえている。しかし、対等であることを前面にだして、主張すべきことは主張するのが外交であるという信念もあっただろう。前回は、条約に有効期限を設ける主張をしたことを例に挙げ、「無期占領ではない」という意思を示したことを言った。

 政治家の日米関係のありかたが大きくかわったのは、なぜかソ連崩壊後である。2強時代が終わってアメリカ一極支配の時代が来たので、世界の帝王にひれ伏すのが国益と考えたのだろうか。特に小泉政権以降それが顕著になった。

 日米安保の軍事同盟的色彩をぼやかすのが政府の方針だった。だから「日米同盟」という言葉は反対派の方で使っていたのだ。それを逆に「日米同盟」を強調、マスコミまでそれに乗ってこっちの方が一般に通用するようになった。北朝鮮の脅威まで持ち出す情報操作のこわさがある。

 それから、関岡英之氏の『拒否できない日本』を引くまでもなく、アメリカから日本政府あて「年次改革要望書」などという指図がましいレポートのあることもわかった。そして、安倍内閣に至るまで「アメリカと共通の価値観」などと、あたかも両国の国益が完全に一致するような姿勢さえ示すようになった。

 憲法改正に執念を燃やした安倍前首相は、祖父の遺志を継ぐつもりだったかも知れないが、根っこの部分の違いをどれほど認識していたか、はなはだ心許ないと言わざるを得ない。アメリカの一極支配構造はすでにかげりを見せている。これを先取りするような政治家を期待するのは、果たして無理なのだろうか。

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