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2008年3月21日 (金)

選民意識と和解

 今月18日、ドイツのメルケル首相がイスラエルに行って国会で演説した。その中で、「ドイツ人はホロコーストを心から恥じている」と語り、「犠牲になった方々や生き延びた人を助けてくれた方々すべてに頭を下げる」と謝罪した。

 その一方で、イランの核開発問題やパレスチナ武装組織に対するイスラエル側の立場に同調、支持支援するという。和解には代償が必要なのであろうか。そうでなければ、かつてユダヤ人が受けた迫害には深く同情するが、土地を奪われ、故郷から追い出されたパレスチナ人の方は関心なし、というふうに聞こえる。

 私は、ヨーロッパの人々が、過去の大戦の苦い経験を再び起こさないため、国境を越え意見を交わし工夫を重ねながら今日のEUを築き上げてきたことを、高く評価するものである。それとの直接の関係はないが、ドレスデンの和解が想起される。

 ドイツ東部の古都ドレスデンは1945年2月、英米軍の無差別爆撃で街の85%が破壊され、死者3万5000人をだした。大戦の勝利を手中にした連合国側の報復だったという説がある。95年の追悼式典で、英女王の名代ケント公、米英両国の軍トップらが列席する中、ヘルツォーク独大統領は演説した。

 「死者への哀悼は文明の起源にさかのぼる人間感情の表現です。歴史全体を理解しない限り歴史を克復し安寧と和解を得ることはできない」。そして、ドレスデンの犠牲をナチスの悪行に対する「死者の相殺」とみなす考え方を退け、言外に連合国側の殺りくの責任を指摘した上で、半世紀ぶりの和解を宣言した。

 ユーゴスラビアから最初に独立を果たしたクロアチアをまっ先に承認したのは、ドイツである。クロアチアはナチスドイツと組んでセルビアと激しい戦闘を繰り返した因縁のある地域である。大量虐殺の噂が飛び交い、火薬庫バルカンといわれる地域におけるその後のNATOの行動を含め、問い直されなくてはならないものがある。

 ホロコーストの反省や謝罪は当然である。しかし人種血統でアーリアを優位に起き、ユダヤ排除を叫んだヒトラーを熱狂的に支持したのはドイツ国民である。つまり世界一「優秀なドイツ人」という選民主義に乗ってしまったことに対する評価はどうなっているのだろうか。まさか、同じ文化・価値観を持つところとは和解するがそれ以外のところは対象外、ということではないだろう。

 これは、ドイツに限ったことではない。最近、また北欧でマホメットを戯画化した新聞が出たとかで、ビンラディンを怒らせている。選民意識というとキリスト教徒に強いようだが、愚かなことである。ムスリムにはそれに劣らないアッラーへの帰依意識がある。つまり一神教内では避けられない衝突かも知れない。

 日本人も選民意識には無縁ではない。万世一系の天皇をいただく日本人、大御代に生を受けた幸せと感激、御稜威(みいつ=天皇の威光)を世界のすみずみへ、というモットーが支配していた一時代がある。もっとも、それを復活しようという人もいるようだが、まあ世界では受け入れられない。

 選民意識をなくしろ、といってもそれは無理だろう。選民意識で他民族を支配し、また蔑視、差別、排除を目的に攻撃するのでなければ別に悪いことではない。「和を持って貴しとなす」は、日本国家形成の頃、聖徳太子が憲法のまっ先に掲げた遺訓である。「和解」の伝統は筋金入り、今憲法9条を手にしていることこそ、日本の選民意識の中心に持ってくることがらではなかろうか。
  

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コメント

おやおや、ヨーロッパ全体を十把一絡に選民主義で
語っちゃうのは感心しませんねぇ。
まず、ドイツのナチス時代への罪悪意識って凄まじい物がありますよ。だから、一人一人のドイツ人が現イスラエルの政策についてどう思っているかはともかく(批判的な人の方が多いんですけどね、本当は)、ドイツ人の国民意識としては絶対にイスラエルを公に批判できないんですよ。表立ってそんな事言えるのなんて、比較的しがらみのない若い左派グループの学生達とか、あとはネオナチくらいですよ。なにせ大戦後、ドイツ人であるという事は罪悪であると刷り込まれてきましたから。
だいたい欧米=選民意識って、いかにも古い日本人の思い込みですよね。政治、特に曲がりなりにも国際政治に類するものを語るなら、もう少し実地的な見聞を深められたら如何でしょう。

投稿: ごまさば | 2008年3月21日 (金) 15時27分

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