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2008年2月25日 (月)

ゴーストップ事件

 海上自衛隊イージス艦あたごが漁船と衝突した事件について、海上保安庁の捜査が進み、自衛隊側の無責任体勢が徐々に明らかになりつつある。これも、どうやら相次ぐ自衛隊の不祥事と似たような経緯をたどることになるだろう。

 ある自衛官OBは、某軍事雑誌の中で守屋前防衛次官を「心根の卑しい」などと、口をきわめて非難を繰り返し、制服自衛官の持って行き所のない無念さを誌面にぶつけていた。そして、制服組とか背広組といった組織上の不統一、文民統制のルール欠如、政治家や国民、マスコミの無理解や誤解など、根元的な問題があることを訴えていた。

 要は、傷つけられたプライドをどう立て直すか、ということにつきる。そこに今回の海上衝突事故が逐一報道され、戦前にあった「ゴーストップ事件」を思い起こした。天木直人さんのブログに、この事件を知らなかったと書いてあったのを思い出したので、改めて簡単に紹介しておく。

 1933年(昭和8)6月、日本が国際連盟を脱退した年である。大阪市の繁華街、天六交差点で休暇中の陸軍一等兵が、赤信号を無視して横断したのを、交通整理中の巡査がとがめたところ、「軍人は警官の命令には従わない」と抵抗した。

 いわゆる公務執行妨害のようなことがあったのだろう。交番で取っ組み合いのけんかになり、双方とも軽いけがを負った。その場はおさめたものの、憲兵隊が「公衆の面前で制服の帝国軍人を侮辱したのは許せない」として警察署長に抗議した。

 なお、検索した資料の中に「天皇の赤子(せきし)である皇軍」とあったがこれは誤りである。「陛下の軍人」とはいったかも知れないが、赤子とは朝鮮人、台湾人を含む天皇の恩徳の及ぶものすべて、すなわち国民を指すことばである。

 このトラブルが師団長と大阪府知事、軍部と内務省にエスカレートし、ついには天皇の耳にまで達した。結局天皇の意向を受けて兵庫県知事が間に立ち、双方がわびる形で納めたが、この事件は、皇軍は天皇の命を受けて動く(直隷)存在であることを印象づけるのに役立ち、その後の軍専横を許すきっかけを作ったとされる。

 ひるがえって、今回の事件である。陸と海の違いはあっても、交通違反事件には違いない。軍艦は海上保安庁に身柄拘束され、取調を受けて証拠書類も押収されている。中には、いざという場合防衛大臣の指揮下に入る国土交通省の外局に過ぎない海上保安庁に、なんで取調を受けなければならないのだ、という気持ちを持つ者がいてもおかしくない。やはり、命がけで国を守っている、というプライドが先行しているからだ。

 また、それとは別に自衛隊には警務隊、警務官というものがある。つまり昔の憲兵である。なにがどう機能するのか、それぞれの組織・権限は一般国民にわかりづらい。いや、一般国民でなくとも、政治家がこれらをしっかり把握しコントロールできていたら、こんな事件は起きなかっただろう。

 前述のOB氏の慨嘆、指摘も概ね理解できる。軍政、軍令の未分化を問題視し、「自衛隊は建軍の精神に立ち返らなければならない」ともいっている。おっと、ちょっと待って欲しい。軍、軍と、いつから自衛隊が「軍」になったのだ。

 しかし、これは無理もない。米軍と緊密な連絡をとりあい、米軍のマニュアルに従って共同訓練をすればどうしも「気持ちは軍」になってしまうのだろう。彼らにとっては、陸海空軍であることにいささかの疑問も感じてない。従って、実情に合わない憲法は変えるべきだになってしまうのだ。

 しかし、国民は賛成していない。こういった「ねじれ現象」が彼らをいらだたせ、また軍紀に影響し、目的意識を狂わせているのではないか。すべての「ねじれ現象」は、憲法と日米安保運用の「ねじれ」から発生している。占領、朝鮮戦争、冷戦、中東など、世界情勢の変化の度に安保の運用をねじまげてきたた現況を一度ほぐさなければならない。

 そして、世界情勢の変化、将来の安全保障のありかたなどを再検討し、国民のコンセンサスを得て自衛隊員が誇りを持てるような制度への再構築をすべきだ。この点、すべての与野党が任務をさぼっているような気がする。テロ新法を恒久法に切り替えるなど、ねじれを増幅するようなことはすべきではない。

 政界再編に意義があるとすれば、これに正面から取り組む政党が誕生するかどうかにかかってくる。過去のゴーストップ事件は、こんなことろまで思いをいたすきっかけを作ってくれている。

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コメント

>こういった「ねじれ現象」が彼らをいらだたせ、また軍紀に影響し、目的意識を狂わせているのではないか。

初歩的な操舵ミスで自国民の生命を奪うような、職業人としての最低限の責任感さえ欠如した輩を、次元の異なる将来の安保のあり方に絡めて免責するかのように論じることは危険だと思います。

>自衛隊員が誇りを持てるような制度への再構築をすべきだ。

制度設計の際に、国民の安心・安全が優先的に考慮されるべきなのは言うまでもありません。まして、傲岸な自衛隊関係者の誇りとやらのために、その他大多数の国民の生命や幸福の軽視が罷り通るなど決して許されないことです。

自衛隊の危険な玩具「あたご」もそもそも血税です。これ以上、自衛隊は何を国民に求めているのかと思うと、怖ろしいばかりです。

投稿: 怒りの主婦 | 2008年2月25日 (月) 11時56分

怒りの主婦さま
コメントありがとうございます。
まず、事故を起こした自衛官を免責するなどのことは書いてもいないし思ってもいません。主語はOB氏です。プライドと傲慢は紙一重ですが同じとはいえません。そこを考えるためにゴーストップ事件をとりあげたのです。
イージス艦も日本の専守防衛に効果的で、どうしても必要なら、その存在自体は否定しません。
ただし、日米のシステムの上でしか機能しないとなると、検討の余地はあるでしょう。
クラスター爆弾や新型戦車などは使えないおもちゃです。

投稿: ましま | 2008年2月25日 (月) 13時11分

彼らは自衛官である前に海の男だったかという視点もあると友人に言われました。
さて、日米安全保障は、憲法違反だと私は思っています。

投稿: カーク | 2008年2月26日 (火) 12時25分

先日は、通りすがりに言掛かりのようなコメントを残してしまい、大変失礼しました。

ブログ主様のお立場を、自衛官OBのそれと混同して、曲解した部分もあるようです。反省してお詫び申しあげます。

それにしても、コンビニでバイトをしている高校生や、古着に身をやつして渋谷辺りを徘徊しているフリータ風の若者達でも自然に身につけているはずのモラルや矜持(ああいう着こなしにも苦労はある様です)さえ、(報道に接するかぎり)自衛官には無さそうですね。

今は、安保のねじれよりも、そちらの行方が気になります。

投稿: 怒りの主婦 | 2008年3月 3日 (月) 17時00分

カーク さま
怒りの主婦 さま

 あたご事件も石破さんの不手際でかえって詳細が見えてきましたね。かつて同級生に佐官クラスまでいったのがいましたが今は知り合いがいません。
 OBがよく寄稿する軍事誌とか、この前インド洋に再赴任する際、テレビで見た「われわれの任務が憲法違反などといわれ・・・」などと挨拶していたことなどで推測するだけです。
 今の自衛隊は一旦解散してゼロから作り直さなくてはならないほどのところに来ているのではないかという印象です。
 なお、安保条約そのものはすれすれ合憲だと思いますが、その後の運用指針など現在の解釈は明らかに違憲です。
 これを正せる政治家、はやくいでよ!!。

投稿: ましま | 2008年3月 3日 (月) 17時40分

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