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2008年2月20日 (水)

入門編・戦争とは12

 「人間はなぜ戦争をするのでしょうか」も5回目になりました。これまで「差別」「経済」「拡張」と話を進めてきましたが、サ・ケ・カ・ナ・シの次はナ、ナショナリズムです。最後にシの宗教が残りますがほとんどここまでで言いつくされると思います。

 ナショナリズムを『広辞苑』でひくと、こうあります。
     民族国家の統一・独立・発展を推し進め
        ることを協調する思想または運動。民族主
        義・国家主義・国民主義・国粋主義などと
        訳され、種々ニュアンスが異なる。

 これからすると、アメリカ国民には多くの民族が含まれていて「ナショナリズム」があてはまらないようですが、それであるからこそ、かえって国家の統一・独立・発展を国民の共通目標として協調しなければならないという面があります。

 独立時の13州をすじ(条)、現在の50州を星で表す国旗・星条旗は、まさにアメリカの多様性と統一の象徴でもあります。ブッシュ大統領がアフガン、イラクへの進攻にあたり、盛んに「正義」「邪悪」「敵につくか味方につくか」といった言葉を乱発し、戦意高揚をはかったのはナショナリズムそのものといえましょう。

 戦争をするには、どうしても国民の強い支持がなければなりません。反戦与論や厭戦気分のもとではとても勝利を望めません。それでは、このナショナリズムをかき立てるため、誰がなにをするのでしょう。戦前の日本では、軍部と右翼が互いに利用しあい、最後は政治家、マスコミまでこの勢いに乗って、「天皇制ファシズム」のような体制をつくりだしてしまいました。

 すこし言葉がむつかしくなりましたが、だれにも反対が言いだせないような社会、協力しないものは「非国民」としてつまはじきされる社会です。ドイツのヒトラーは若い頃から野心家でした。ユダヤ人を憎くしむことで国民の不満をそらし、戦争の体勢をきずくことに全力をあげました。

 今の日本でも、中国の軍事的脅威や北朝鮮のミサイルなどをあげて日米同盟強化とか、核の傘が必要という議論をする人がいます。そして台湾海峡こそ次の主戦場と考えます。台湾領で中国大陸からわずか2㎞のところに金門島という島があるのをご存じでしょうか。

 ここには、かつて10万人の台湾兵が守備隊として駐留していましたが、今は5000人しかいません。そして「小三通」といって、本土と島の間の交通、通商、通信制限を大幅に緩和しています。それで大いに双方の利益が増し、今後台湾本島にも中国からの投資を増大することが課題となっています。

 一方台湾の陳水扁総統は、国連加盟の国民投票を計画するなど台湾独立派として知られています。ところが、立法員選挙では野党が勝利し、現在苦境に立たされています。その陳総統も、戦争の危険をおかしてまで本気で独立を考えているわけではない、と思います。

 民族にしろ言語にしろ人種にしろ台湾と中国は、ほとんど共通しています。陳総統のねらったのは「国家」というナショナリズムで与党民進党に有利な情勢を作ろうとしたのではないでしょうか。台湾の人々は決して戦争がはじまるとは思っていないしそれを望んでもいないでしょう。

 では、なぜ島に敵が攻めてくるのを前提とした日米共同訓練をしたり、アメリカと共同でミサイル迎撃実験をしたりしているのでしょうか。アメリカ軍の中枢でも、そんなことが実際に起きるとは思っていません。ただ、軍隊というものはそういうものなのです。

 必要以上に危機感をあおり、予算増額と存在の誇示をしたがるものです。これは各国とも同様です。こういったことの片棒をかつぐ政治家、軍需産業、それに乗ったマスコミや学者・評論家などがいることにも注意しておかなければならないでしょう。

 ただ、国を自らの手で守る気概、そなえが必要なことはいうまでもありません。それは、他国と戦争をする、他国へ出かけていって戦うということとはまったく意味がちがうということを理解しなければなりません。

 最後に国民に対する宣伝について、ヒトラーが自著『わが闘争』で告白している部分を紹介しておきましょう(「反戦老年委員会より」)。
     宣伝はすべて大衆的であるべきであり、
     その知的水準は、宣伝が目ざすべきも
     のの中で最低級のものがわかる程度に
     調整すべきである。(中略)宣伝の学術
     的な余計なものが少なければ少ないほ
     ど、そしてそれがもっぱら大衆の感情を
     いっそう考慮すればするほど、効果はま
     すます的確になる。しかしこれが、宣伝
     の正しいか誤りであるかの最良の証左
     であり、若干の学者や美学青年を満足
     させたどうかではない。宣伝の技術は
     まさしく、それが大衆の感情的観念界
     をつかんで、心理的に正しい形式で大
     衆の注意をひき、さらにその心の中に
     入り込むことにある。これを、われわれ
     の知ったかぶりが理解できないという
     のは、ただかれらの愚鈍さとうぬぼれ
     の証拠である。宣伝になにか学術的
     教授の多様性を与えようとすることは、
     誤りである。大衆の受容能力は非常
     に限られており、理解力は小さいが、
     そのかわりに忘却力は大きい。この
     事実からすべて効果的な宣伝は、重
     点をうんと制限して、これをスローガ
     ンのように利用し、そのことばによっ
     て、目的としたものが最後の一人ま
     で思いうかべることができるように継
     続的に行わなければならない。人々
     がこの原則を犠牲にして、あれもこれ
     もとりいれようとするやいなや、効果
     は散漫になる。

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コメント

 ヒットラーの「我が闘争」は昔読んだことがあります。敵を知るためでしたが、宣伝については批判的に学ぶべきだと思いました。幾ら正しいことを主張していてもそれが人々に伝わっているかどうかと言うことが重要です。ブログを書いていると、果たして分かり易く書けたであろうかと言うことについて考えることが度々あります。

投稿: アッテンボロー | 2008年2月21日 (木) 00時07分

ヒトラーの話し、たしかに耳の痛い部分がありますね。最近あまりはやらないけど「マルクス読みのマルクス知らず」という格言があった。
ブログを見ていても、カタカナの外国文化人名をあげて哲学めいた解説・主張をする左翼論客を見かけますが、『世界』レベルより週刊『新潮』『ポスト』レベルのほうがやはりいいんですかね。
困ったもんだ。

投稿: ましま | 2008年2月21日 (木) 10時10分

アメリカ人とはいってもアメリカ民族とは言わない。
アメリカにナショナリズムはあっても、民族主義は無い為、民族主義を正しく理解していないのかも知れません。

>ブッシュ大統領が乱用していた「正義」「邪悪」「敵につくか味方につくか」はナショナリズムの高揚のためではなく、宗教心の高揚を狙った言葉のようですよ。
例の有名な言葉『味方でないものは敵だ』もマタイの福音書を曲解したもので宗教的なスローガンです。

宗教勢力だけではなく、世俗勢力もマニフェスト・デスティニーの呪縛に縛られたアメリカ人が世界中の『文明化』の使命を持っていると信じている。これもアメリカ教と言えるかもしれません。
アメリカの対テロ戦争とは、限りなく宗教戦争に近いと思います。

投稿: 逝きし世の面影 | 2008年2月21日 (木) 15時23分

最初に逃げを打っておいたんですが、
キリスト教原理主義、プロテスタント、福音書、宗教革命・・・・。旧約聖書の初めの方を読んだ程度で最も弱いし、アメリカ人と教会のありかたなどもよく知りません。
こんどの大統領選にどんな影響があるのか、ないのか、縁なき衆生の迷うところです。

投稿: ましま | 2008年2月21日 (木) 16時21分

私が、それほど宗教に詳しいわけでも、興味が有る訳でもないんですよ。
しかし、欧米(特にアメリカ)の政治経済を調べて将来の展望を予測しても、必ずしも当たるとは限らない。
予測をする為の、大事な何かが欠けているらしい。
そこで経済や政治や社会的側面だけでなく、これに宗教と言うピースを嵌め込むと、驚くほど格段に予測の精度が上がった。
日本人が考えている以上に、宗教的動機でアメリカ人は行動しているようです。

日本では、大統領選挙ですが、アメリカでは、それだけではないらしい。
ヒラリー・クリントン氏は『軍最高司令官として、経験のある私が相応しい』と演説していましたよ。
大統領選が、世界最強最大のアメリカ軍最高司令官の選挙でもあるとしたら、日本人の我々の見方も違ってくる。
アメリカ軍最高司令官には無神論者は絶対になれないタブーがあるらしい。

投稿: 逝きし世の面影 | 2008年2月22日 (金) 14時43分

おそろしいですね。日本で言えば皇道派か。まだ西部劇の名物保安官の方がましのようです。おっしゃる意味はよくわかります。

投稿: ましま | 2008年2月22日 (金) 17時45分

ウーム、ましまさん、今晩は。こないだふとプーチンの4年前セりフ
「私は4年契約で雇われただけ」を思い出し、ア、大統領って、パートタイマーの帝王なんだ、と。ロシアの大統領権力は三権を超越してマスカラね。かつての書記長や皇帝同様。
他所の国もあの手この手で、そういったパートタイマー帝王に追随したがっているのかな? 共謀罪創設とか、首相公選とか、愛国法とかで。
そういえば、レーニンの護民官。
これの時限的「帝王」って言えなくもない。問題はそれを「ミイラ」化して、「無期限」に私用っていう輩が出て来た時の「歯止め」が効きにくいこと。他所も似たような手立てを組まないと対抗できないことが多いし、その副作用も大きいのでしょう。
オスマントルコにビザンチンが滅ぼされウィーンが包囲された後、西欧の近代絶対主義国家への道が「作動」し、各種市民革命を経て、植民地分割戦等と「遅れた統合国家」との激突。
戦後の植民地の解放戦。今もその大きな流れの中に居ますね。落ち着きかけても「色んな古傷」をチチくる煽動で、一気に大火事になりうる。乾いた土壌をもっと「湿らせる」方策、色い炉と開発しなきゃあなりま千ね。
PS.
オリオンビールって沖縄では有名ですね。天の赤道を通る「腰の三ツ星」(=航海の導き)と、やはり関係があるんでしょ?

投稿: 三介 | 2008年2月23日 (土) 03時00分

三介 さま
「反戦」本舗としましては、近代西洋史がとても大切なことまではわかっているのです。ところがさっぱりわからんという弱点がありまして。shock
今後もポイントを教えてください。

投稿: ましま | 2008年2月23日 (土) 13時26分

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