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2008年1月29日 (火)

帰還兵の殺人

 読売新聞(1/14、電子版)は、米軍帰還兵による殺人事件が多発していることに関し、ニューヨーク・タイムズの記事を次のように伝えた。

     【ニューヨーク=白川義和】米紙ニューヨ
         ーク・タイムズは13日、2001年の米同
        時テロ後にアフガニスタンやイラクに派遣
        された米兵のうち、帰還後に人を殺したり、
       殺人罪で訴追された者が少なくとも121人
       に達していると報じた。

    同紙が警察や裁判所、軍当局などの記録
   から独自に調べたもので、対テロ戦争に参
   加した米兵の「心の傷」の深さや社会への
   適応の難しさを示した形だ。

    同紙によると、121人のうち4分の3は犯
   行当時、米軍に籍を置いていた。犯行の半
   数以上で銃が使われた。被害者の約3分の
   1は配偶者や恋人、子供や親類で、4分の1
   が軍の同僚だった。イラクの激戦地ファルー
   ジャで頭と足を負傷した20歳の男が、テキ
   サス州で2歳の娘を壁にたたきつけて殺した
   事例もあった。

    帰還兵の犯罪率の高さは過去の戦争でも
   指摘され、2000年1月の米司法省報告書
   によると、1998年時点で全米で22万570
   0人の退役軍人が収監された。このうちベト
   ナム戦争帰還兵は5万6500人、湾岸戦争
   帰還兵は1万8500人。収監中の退役軍人
   の約35%が殺人や性的暴行の重罪で有罪
   判決を受け、他の収監者の重罪比率20%
   を大きく上回っている。

 当ブログの前身である「反戦老年委員会」では、清水寛著『日本帝国陸軍と精神障害兵士』を手がかりに、戦争が直接原因となる「戦争神経症」について、問題を要約したいと考えていたが、思うにまかせなかった。

 同著が調査対象とした国府台陸軍病院では、患者総数約1万余名うち約6%が痴愚、魯鈍などと分類される知的障害患者で、約42%の精神分裂症が第一位、以下ヒステリー、外傷性てんかん、精神衰弱そして知的障害の順となっている。

 当時、米軍のイラク派兵などで問題にされている「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」という分類はなく、戦争によるトラウマ関連の研究もなかったように見える。

 その裏には「皇軍の精鋭に精神障害者などあり得ない」という建前と、兵士自身にも戦場の「こわさ」とか「おびえ」などは、口が裂けてもいえなかった事情もありそうだ。ましてや名誉ある皇軍帰還兵による犯罪追跡など、できるわけがなかった。

 しかし太平洋戦争激化にともなう入院患者の増加もあり、「戦時神経症」の名で追跡調査がはじまったが、特に「平時」の症例と異なる対症療法があったわけではなかった。その中に、中国戦線で上官の命により多数の住民や、自分の子と同じ年頃の子まで銃殺したことに対する自責の念が起因、という記録も残されている。

 戦争神経症は、目黒克己氏の調査によると、第二次世界大戦での精神障害の中で戦争障害の占める割合は、日本21%、ドイツ23%、米国63%であるという。また、国府台病院では、終戦直後に患者の病像に変化が見られ、約29%が早期恢復を示したという。同書はさらに訴える。

 戦後初期、戦傷病者は「未復員者給与法」によって療養の給付を受けた。その後、援護法制は変わったが戦傷精神障害元兵士の多くは「精神病」にたいする偏見・差別もあって、精神的・社会的にいわば<未復員>状態が続いたようである。2005年3月末現在、「戦傷病者特別援護法」等による入院精神障害者は全国で84人(平均年齢80代半ば)である。

 戦争の被害は、戦地の戦死者をカウントするだけではすまない。上記の記事で見られるような殺人犯の多発には、やはり表面化しない精神障害の存在を考えざるを得ない。戦地ではない母国にも戦争による、死者を増やし続けていることになる。

 以上は、07/2/1のエントリーを参照し再録したものであるが、最後に、『悪魔の飽食』の作者、森村誠一氏の警句を付け加えておく。

 「民主主義と平和は、それを維持するためになんの努力もしなれば自動的に崩壊する傾向がある。それに反してファシズムは放っておけば力を得る」。 

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コメント

>自動的に崩壊する傾向がある。
>それに反してファシズムは放っておけば力を得る
こんちは、ましまさん。
家とかも、使わないと、傷んでいきますね。エントロピーの法則と言うべきか、分子レベルの煩雑さがブラウン運動で増すからと言った方が分かり好いのか、温かい湿潤な地方ほど、苔むし分解され、でもって次の何かに「輪廻転生」する速度も速い。そやからか、「お伊勢さん」は20年周期で建て替えはる・・。今のPC関係の新製品は、車や戦闘機も含めて、5年位かな?
スクラップ&ビルド。
スクラップ速度を促進するのが、革命的手法。遅延するのが、保守的手法。
資本制は、[革命的手法]が大好きです。でも巨大資本や国家は、それやと「計画」的戦略が誤和算に成ってしまう畏れ大なので、各種「機構」を用いて、急速な崩壊を食い止めようとする。その「つけ」は「外部化」。
ある意味、自民党も・・共産党も、此処の認識は共通でしょうね。

投稿: 三介 | 2008年1月30日 (水) 11時55分

三介 さま
兄さんの面目躍如のコメントとTBありがとうございました。
「カオスの中からなにか新しい芽が」なぞと、イザナミみたいな世迷いことを友達に語っていたのが1980年頃。
考えてみれば、その頃から靖国神社参拝が始まったんですな(鈴木内閣)。

投稿: ましま | 2008年1月30日 (水) 13時06分

この記事にショックを受けて、私も記事をUPしました。TBが通らないので、
リンク貼りますね。
http://blogs.yahoo.co.jp/kark530/53319813.html

投稿: カーク | 2008年2月 1日 (金) 19時04分

「NHKスペシャル 戦場 心の傷(1)兵士はどう戦わされてきたか」では、日本軍も、心の傷を負った兵士の治療に電気ショックを与えるというくだりがあり、治療を受けた兵士が血の塊をはいたという報告が残っているようです。
現代の兵士は、現代の奴隷か、あるいはそれ以下のようで、悲惨です。

投稿: カーク | 2008年9月19日 (金) 18時35分

カーク さま
以前おいでになっていたのですね。
システム不全でこのところ混乱気味、○○障害というほどではありませんが、どたばたしておりまして。
(゚ー゚;

投稿: ましま | 2008年9月19日 (金) 22時59分

以前も訪問していて、おまけに記事まで書いていたことを忘れていました。
兵士にはなりたくないすね、いや、戦争は嫌だ。

投稿: カーク | 2008年9月21日 (日) 19時39分

お彼岸です。近所の兵隊さんの墓に参詣して記事にしました。
ここは平和です。総理も外宣右翼もマスコミも来ません。お供えの菊がとても鮮やかでした。

投稿: ましま | 2008年9月22日 (月) 21時03分

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