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2007年10月22日 (月)

内政干渉の話

 ビルマの軍事政権が僧侶を中心にしたデモに発砲、弾圧した事件は、日本人ジャーナリスト、長井健司さん射殺現場の映像も加わり、国内に大きな波紋を投げかけた。しかし、最近は潮が引くように報道の量も減り、関心の外に置かれようとしている。

 わずかにスポニチが、マレーシアの首都クアラルンプールの日本大使館前で19日、僧侶を含むミャンマー人約100人が、長井さんを追悼する集会を開いたことを伝え、また、昨日はビルマの夜間外出禁止令が解かれたという小さな記事をどこかで見た。そして今日はなし。

 民主化が一日も早からんことを祈るばかりだが、事件当時、国連の決議、経済制裁を声高に唱えるアメリカ、ヨーロッパ各国に対し、影響力がもっとも強い中国が「内政干渉」を理由に反対していることが報道され続けた。

 それも「内政干渉」は、石油、天然ガス開発権やインド洋岸から中国へ貫通する石油パイプライン敷設権を確保するための「口実」であるかのような言い回し方であった。しかし、この「内政干渉」という言葉は、中国にとって非常に重い意味を持っている。

 第2次世界大戦が終わるまで、中国は日本をはじめ列強の内政干渉に苦しめつけられ続けた。革命後もソ連の執拗な干渉に抵抗し戦火まで交えた。そして今、チベットや台湾についての干渉に神経をとがらしている。つまり、帝国主義への本能的反発がそうさせているのである。

 前回、半世紀前の「内灘闘争」を取り上げたがその頃、中国共産党は大陸での支配権を確立した。またインドなど、長い植民地支配を脱し国民国家への歩みをはじめた新興国家は、国際平和のための共通原則を掲げて連携した。

 1955年4月18~24日、インドネシア・ジャワ島の高原都市バンドン(かつて支配していたオランダ人は「ジャワのパリ」と呼んでいた)で開かれた29か国によるアジア・アフリカの有色人種国による国際会議(アジア・アフリカ首脳会議)があった。

 インドネシアのスカルノ大統領は開会演説で、「多様性の中の統一」と「反西欧ではなく、アジア、アフリカ諸国の誇りの上に立った国際協調こそが、この会議の目的である」と述べたが、その格調の高さは全世界に感動を与えた。

会議は、経済協力、文化的協力、人権及び自決、従属下の民族の諸問題、パレスチナなどの諸問題、軍縮と核兵器全面禁止を訴える世界平和と協力の促進、世界平和と協力の増進に関する宣言を盛り込んだ最終コミュニケを採択した。

 その「最終コミュニケ」G項が、反帝国主義・反植民地主義のもとに、民族独立・人種平等・世界平和・友好協力などをうたう「平和10原則」(「世界平和と協力の増進に関する宣言」)である。

 このとき日本代表として参加した高碕達之助・経済審議庁長官は、「わが日本が国際紛争解決の手段としての戦争を放棄し、武力による脅しを行わざる平和民主国家であることを、この機会に再び厳粛に宣言する」と、アジア諸国とまみえる場で、新憲法の精神を強調した。「平和10原則」は次の通り。特に6.7.8.は今日に通用する教訓になっている。

1.基本的人権と国連憲章の尊重
2.国家主権、領土保全の尊重
3.人種、諸国家の平等
4.内政不干渉
5.国連憲章に従い諸国民が個別的、集団的に自国を防衛する権利の尊重
6.集団的防衛機構を大国の特定の利益に用いず、他国に圧力をかけない
7.領土保全、政治的独立への侵略、脅迫、力の行使をしない
8.国際紛争は国連憲章に従い、関係国が選択する平和的手段で解決
9.共通の利益と協力の増進
10.正義と国際的義務の尊重

 この合意には下地があった。ほぼ1年前、ジュネーブで中国の周恩来首相とインドのネール首相が会談し、冷戦の谷間で中立的立場をうたった次の「平和五原則」に合意、共同声明を発した。その中心をなす精神は、内政不干渉と平和共存である。

1.領土主権の相互尊重
2.相互不可侵
3.相互内政不干渉
4.平等互恵
5.平和共存

 その後さまざまな紆余曲折があるが、AA(アジア・アフリカ)会議、非同盟諸国会議さらにはアセアンなどに受け継がれている。安倍前首相のオーストリア、インド、それに日米をくつけて「共通の価値観、価値観外交」などという思いつきキャッチフレーズが、いかに浅薄なものであるかわかる。

 内政不干渉の対極にいるのがアメリカである。パキスタンでブッド元首相車列で大爆発が起き、核保有国である同国の治安が崩壊の危機にある。亡命中のブッド帰国をアメリカが工作したというが、こういったあからさまな内政干渉は、パレスチナ、イラク、アフガンかつての南米各国など例を挙げきれない。

 冷戦後、武器や資金をたれ流して内戦状態を招来したところには、すべてアメリカの手があるといっていいほどだ。ビルマへの圧力は必要だが、内政干渉、不干渉どちらを取るか、人類の血を流さないためにはどの道を選ぶべきか、まさに今それが問われている。

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コメント

 こんにちは。
 なるほどそう言われれば中国の姿勢はダルフール問題などでも内政不干渉で一貫しています(嫌味ではありません。念のため。)。それには気づきませんでした。
 ただ、ミャンマーにしてもチベットにしても内政干渉の点ではそうですが、AA会議の10原則の最初にもある基本的人権という点では問題があるのではないでしょうか。
 とはいえ、日本の報道の論調には私も疑問を感じますし、アメリカのやり方はまさに仰るとおりだと思います。こういう言い方をしては駄目なんでしょうが、結局は各国の利害第一、理屈は後から貼って付けているだけのようにも思います。

投稿: locust72 | 2007年10月23日 (火) 15時41分

欧米諸国が民主化の旗手として天まで持ち上げるアウンサン・スーチー氏と97年アジア通貨危機の仕掛け人ヘッジファンドのジョージ・ソロス氏との密接な関係は東南アジアでは有名。
ソロス氏の主催する人権団体オープン・ソサエテェは、東欧や旧ソ連諸国での政変の影の主役との報道もあり、決してソロス氏の世界民主化の目的が『民主主義』では無い可能性が非常に高い。
日本での中東やミャンマー報道は欧米通信社の恣意的なバイアスが働いている危険性が濃厚。

軍事政権が精鋭部隊を投入して大弾圧との報道ですが、報道されている長井健司さん射殺現場の映像写真を注意して見ると、国軍兵士はゴムぞうりを履き長井さんはスリッパ履き。
この時点ではマスコミ発表のような致命傷は受けていないし緊迫感も薄い。
長井氏は仰向けに倒れながらも頭を持ち上げ撮影を続行している。(腹部に致命傷を受けて要れば無理)
写真の兵士も精鋭部隊ではなく錬度の低い予備役か民兵ではないでしょうか。?

投稿: 布引洋 | 2007年10月23日 (火) 17時29分

locust72 さま。そうなんです。まさに弁慶の泣き所ですね。だから五原則には入っていません。
 経済発展のためにグラスノスチから始めなければならないことは、十分認識していると思いますが「人権」の価値基準が欧米と相当違うのではないでしょうか。
 外交は国益第一ですが、アイデンティティーやナショナリズムとどこで折り合いをつけるかということになると思います。
 こういった場合、国際世論や大義名分がものをいいますね。

投稿: ましま | 2007年10月23日 (火) 17時52分

布引 洋 さま
厳重な報道管制(にしては抜けてるところもあるが)や戦時体制のもとではたしかに加工した情報が飛び交いますね。平和が売り物の洋上給油でさえそうだ。
 従って素人は一つの情報だけでなく、もれてくる多面的な情話の最大公約数で判断するしかない。ビルマ情報はたしかに不自然です。

投稿: ましま | 2007年10月23日 (火) 18時13分

今晩は、ましまさん。
神浦元彰さんの10月1日[コメントによると、
http://www.kamiura.com/new.html
「長井さんが射殺・・兵士が、軍靴をはかずサンダル履き・・、おそらくヤンゴンから遠く離れた山間部・・部隊で、ジャングル以外・・サンダル履き(素足)が普通の部隊と推測・・チン族で編制・・第77師団・・ミャンマー国内では厳しく差別された少数部族、経済的に貧しく識字率も低い・・チン族の宗教で仏教徒は少ない・・から仏教徒が多いミャンマーで差別されてきた。
・・カメラマンの本性・・混乱した事態が起これば、無条件にカメラを回すことは理解出来る」とのことです。

五十嵐勉さんの「ミャンマーの内乱をどう見るか ~今後のシナリオ1・2・3~ 」も詳しい(苦渋に満ちた)分析です。

投稿: 三介 | 2007年10月24日 (水) 23時11分

あ、リンクはここ、↓。
http://www.asiawave.co.jp/igarashi-myanmar20070928.htm

投稿: 三介 | 2007年10月24日 (水) 23時13分

三介 さま。
貴重な情報ありがとうございました。早速行って見ます。

投稿: ましま | 2007年10月25日 (木) 08時59分

locust72 さま
言い忘れました。
靖国問題は国内問題、というのが持論です。したがって、中国が国連決議や不買運動を唱導するようなことがあれば、明らかに内政干渉でダブルスタンダードになりますね。

投稿: ましま | 2007年10月26日 (金) 09時14分

神浦元彰さんの記事内容は比較的公平で信用がおける。しかし小さい事かも知れませんが気になったことを幾つか。
ミャンマー政府を、ことさら『軍事政権』(軍政)と呼んでいるが、同じような周辺諸国タイやパキスタンではクーデターで成立した軍事政権だが『○○政府』と表記、いちいち軍事政権とは呼ばない。

>軍靴をはかずサンダル履き・
軍人のサンダルといえば有名なホーチミンサンダルが知られているが、実物は足の親指に引っ掛けるゴムぞうり(ビーチサンダル)かかとが固定されていないので走れない代物。

問題の写真はロイターのカメラマン撮影。
1m前の銃を持った緑色上下制服でゴム草履兵士と5メートル離れた所で群衆を棍棒で殴る靴を履いた青色の上服黒色ズボン姿(警察?)
治安維持が目的の警察と戦争(破壊と殺戮)が任務の軍隊と、全く違う二種類のモノが混在している。


投稿: 布引洋 | 2007年10月26日 (金) 12時19分

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