世界中、死傷者の出るデモがどこかで発生している。16日に発生したイランの大規模デモは、我々にとって唐突な感じがした。
香港のデモが3月頃に始まり、その原因・経過が逐一報道され、今月の選挙実施に至った変化を追うことは比較的簡単だ。
イランについては、アメリカの経済制裁によるガソリン価格の大幅値上げに対する抗議という、理由は別として、どうもホメイニ革命以後のイランの国情や、その後維持してきた「国の姿」に似つかわしくないのだ。
日経新聞(11/27)がやや詳しい報道をしているので、それを引用する。
【ドバイ=岐部秀光】イランの首都テヘランなど各地で16日にガソリン価格の引き上げに抗議するデモが発生して1週間余りが経過した。当局は全土でインターネットを遮断するという強硬策でデモの拡大を押さえ込んだ。通信再開にともない、関連動画が公開され、当局が過剰に対応した可能性が浮上している。
デモの広がりは米国による経済制裁で経済状況が悪化するなか、市民の怒りが爆発寸前まで高まっている可能性を示す。国民の負担増にあえて踏み切らざるを得なかったイラン政府の財政事情も厳しさを増しているとみられる。
政府は15日、事前の予告なしに1リットル1万リアル(実勢レートで9円)だったガソリン価格を1万5千リアルに引き上げた。さらにこの「配給価格」で買うことができるガソリンの量を自動車1台につき1カ月60リットルに制限。それ以上を購入する場合には1リットル3万リアルにするとした。
発表は週末の深夜であったにもかかわらず、デモは瞬く間にひろまった。当局の対応も素早かった。16日にはネットの制限に着手。チャットアプリを通じた国外との通信もできなくなった。
最高指導者のハメネイ師やロウハニ大統領もデモの参加者を激しく非難した。治安部隊が過激化したデモの鎮圧のために強硬策に踏み切ったとの見方も広がる。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはデモ参加者と治安部隊の衝突などで106人が死亡したと指摘する。
イラン当局は26日までに徐々にインターネットの規制を解除。これによってイラン市民が撮影したとみられるデモの動画が国外にも拡散した。真偽は不明だが、デモを沈静化するため革命防衛隊がマシンガンを用いたとされる動画がネット上に出回った。
古代のペルシャ。文明の古さでは他にひけをとらない。
40年前までは米・英の保護を受ける王政の国だった。それをくつがえし、国外追放されていた宗教指導者ホメイニが、民衆の歓迎するなかで迎えられイスラム・シーア派を代表する宗教大国を築き上げた。
その過程で、アメリカ大使館を学生が占拠し続けるなど、アメリカの中東支配にとって唯一邪魔な国となった。
イランは形の上で共和国であり、大統領もいる。しかし、外交、軍事は宗教指導者の意に背くことができない。さらに三権分立の上に存在する権威を持つ。
イランの民衆行動は、これまでアメリカなどイランの尊厳を無視するような国に向けられてきた。
それが今回は、国政に対する不満から生じている。ということは、宗教指導者にNOを突きつけているようにも見えるのだ。
だとすると、複雑な中東情勢を判断するうえで、これまでと違った姿をイランが垣間見せたということになる。
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